「所詮、神とて元は人。必ずしも万能ではなく、時には我々と同様に過ちを犯す」。
とある神学者は、自らの著書の中で不敬にもそう述べた。
彼は人々から不敬者と罵られたが、人々の知らぬ歴史の中で、神は確かにいくつもの過ちを犯していた。
神々が過ちを犯した時より数千年、舞台はテラスティア大陸北部ザルツ地方に存在する“橋の国”ダーレスブルグ公国。
《大破局》以前に国土として有していたレーゼルドーン大陸は、災厄から300年が経った今でも蛮族に支配されたままであり、奪還の為の戦いが今も尚激しく繰り広げられている。
だが、ダーレスブルグの抱える戦いはそれだけではない。
北への開拓を推進する「開放派」とレーゼルドーンに至る門を閉ざし、蛮族に備えるべきだと主張する「保守派」の国内での対立、そして何より南の大国“ザルツの要塞”ルキスラ帝国の脅威。
それら3つの戦いに翻弄され、公国は次第に時代の波に飲まれていく。
――果たして人は、絶対的な力を持つ存在を前に、人としての尊厳を保ったまま抗い続ける事は出来るのだろうか。