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歪みの躙廻/出来事紹介
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***大陸新暦307年 国王ソーラス崩御 [#r5e9214e] 《血の禊事件》から1年後、病床に伏していたソーラス王の病状が著しく悪化し、彼は41歳という若さで逝去してしまいます。王の崩御の報に国民たちは嘆き悲しみますが、東の隣国ルキスラ帝国では“黄金”と呼ばれるドレイクを領袖とした蛮族軍との戦いが激化していた事もあり、早急に次の国王を立てる必要がありました。国民たちの目は当然、ソーラス王の娘であるコークル姫に向けられます。この頃にはまだ成人も迎えていないコークル姫でしたが、その聡明さは既に国民たちの中で話題になっており、優秀な宰相をつけた上で即位すれば、彼女の年齢など気にする必要もないとされていました。 しかし、コークル姫はその即位の要請を拒否。双子の妹であるラフェンサ姫との共同即位を訴えます。コークル姫とラフェンサ姫が非常に仲の良い双子の姉妹であることは、国民の誰もが知る所でしたが、フェンディル王国ではこれまでに共同即位の前例はなく、元老院はさまざまな観点からこれを判断しこれに強く反対、折り合いがつかず、今でも空位が続いています。 この玉座を巡る事件は大きな混乱を招きましたが、国王代理としてコークル姫とラフェンサ姫が14歳の若さにして驚くべき政治手腕を発揮すると、瞬く間に収束しました。彼女たちは、ソーラス王の遺志を継ぎ、国内の食糧不足の解決から力を注ぐことにし、農地改革や作物の品種改良、流通の整理など、国内での工夫から難題を解決に導こうと尽力しています。
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*出来事紹介 [#n563ec39] ****目次 [#r69a34e4] #contentsx **簡易年表 [#p9088fdc] 《大破局》以降、ザルツ地方ではその終焉を元年とするルキスラ帝国暦という年号が使用されるようになり、現在ではそれが「大陸新暦」としてテラスティア大陸一般に広まっています。 当キャンペーンでは、キャンペーン開始時を大陸新暦311年と定め、物語を展開していきます。また、以下は当キャンペーンに関わる地域の出来事を簡単に表にしたものです。 |90|240||c |CENTER:魔法文明時代中期?|CENTER:前期フェンディル王国建国|魔法王フェンディルにより、フェンディル王国が築かれ、無類の大国となる。| |CENTER:魔法文明時代後期?|CENTER:《ジャーベル・ウォーキーの乱》発生|大魔術師ジャーベル・ウォーキーの反逆により前期フェンディル王国崩壊。詳細は不明。| |CENTER:大陸新暦元年|CENTER:《大破局》の終焉|蛮族によって滅亡寸前まで追い込まれながらも、各地で人族が復旧・復興を始める。| |CENTER:293年|CENTER:《虚音事変》発生|セフィリア神聖王国首都アーレにて《虚音》が響き渡る。《虚人》の大量発生。| |CENTER:302年|CENTER:《エレディア入植計画》開始|前王ソーラスとヴェゼンにより、エレディア大三角州への入植が開始される。| |CENTER:304年|CENTER:《魔物病》の流行|《魔物病》と称される死病が流行。原因が不明のまま、多くの犠牲者が出る。| |CENTER:306年|CENTER:《血の禊事件》発生|エレディア大三角州のエルフたちが大量に犠牲となる事件が発生し、エルフらの部族とフェンディル王国、及びロシレッタの関係が崩壊する。| |CENTER:307年|CENTER:双子姫、国王代理に|前王ソーラスの死亡。コークル姫の即位が望まれるが、姫はこれを拒否。ラフェンサとの共同即位を訴える。| |CENTER:308~9年|CENTER:《輪音事変》発生、終息|ザルツ地方において《輪音事変》と呼ばれる一連の事件が発生。帝国、公国の王族や冒険者の活躍により終息。| |CENTER:311年|CENTER:現在|フェンディル王国は双子姫の統治の下、平和を維持している。| **詳細 [#j396a157] 以下に、上の年表に記した出来事の詳細を記述していきます。 ***前期フェンディル王国 [#kcb9356d] ザルツ地方最古の歴史を持つフェンディルは、古代魔法文明デュランディルの時代に礎が築かれました。当時の魔法王フェンディルによって建国され、現在に至るまでこの地を中心に反映と凋落を繰り返しています。 フェンディル王国の長い歴史は、大きくふたつに分けられます。その最初は、発祥から一度目の崩壊を迎えるまでの前期フェンディル王国です。 前期フェンディル王国は、古代魔法文明時代の中頃に興ったとされています。明確な時期が分かる歴史的資料はなく、また建国の魔法王に関する文献のほとんどは《大破局》までに失われてしまっています。しかし、首都ディルクールのベースが魔法文明時代の遺跡であることや、魔法王自身が刻んだとされる建国碑が発見されたことなどから、この通説に異論を唱える者は殆どいません。 魔法文明時代には、魔術師が統治する王国が乱立していたと伝えられていますが、前期フェンディル王国は、広さと人口に抜きん出た強国だったと推測されています。魔法王フェンディルに関する碑石がザルツ西部の各所で発見されていることや、当時の王都の名残と考えられている遺跡群《遺跡と花の丘》の広大さが、その根拠です。 残念ながら記録が失われているため、前期フェンディル王国の歴史は詳らかではありません。それでも各地の伝説、伝承、遺跡などから推測するに、この国は長い時を概ね平和に過ごしてきたようです。当時の王都だったであろう《遺跡と花の丘》に年中花が咲き乱れる魔法がかけられていることは、国民が生活の向上と娯楽の追求に心を傾けていたことと、魔法王がそれに応えたことを証明すると考えられています。 それが成った背景には、建国王フェンディルが何らかの方法で延命し続け、前期フェンディル王国時代のすべてを自らが治め続けられた経緯があったのではないか、という学説があります。実際、どの年代の石碑にも建国王フェンディルの名が刻まれているため、これは有力な通説となりつつあります。当時の「優れた魔術師が覇権を握る」ことが当然だった風潮を考えれば、例えそれが生を冒涜する行為であったとしても、権威の誇示として、延命やその他の強大な魔法が用いられていたとしても不思議ではありません。 ***《ジャーベル・ウォーキーの乱》 [#q55f3674] 隆盛を誇っていた前期フェンディル王国ですが、やがてそれにも終焉が訪れます。 その切欠となったのが、大魔術師ジャーベル・ウォーキーを中心とした一派の反乱でした。 詳細は資料が殆ど残っていない為、今では何も伝わっていないに等しいものとなっていますが、敵無しと思われていたフェンディル王国を脅かす規模の反乱であったことだけは確実であり、入念に練られた計画だったのは疑いようがありません。 この乱が起きてまもなく、魔法文明時代は終わりを迎えます。 生き残った人々はごく少数であり、彼らの手元には前期フェンディル王国の誇っていた技術は何一つとして残されていませんでした。 そんな人々の不確かな記憶と、各地に残る僅かな資料から、《ジャーベル・ウォーキーの乱》について様々な推測がされました。現代に至るまで数多くの説が提唱されましたが、どれもこれも核心には至っていないのが現状です。 その中で唯一、事実と見て間違いないだろうと言われているのが、乱の最後に当時の首都ディルクールで起こった大爆発です。研究者たちによって《王の惨歌》と名付けられたこの爆発こそが、フェンディル全土を飲み込み、フェンディル王国における魔法文明時代の幕を閉じた直接の原因だとされています。しかし、結局のところ、その爆発が誰がどのような目的でどのような方法で引き起こしたかは判明しておらず、現在のフェンディルの研究者たちの間で日々議論が交わされています。 ***後期フェンディル王国 [#qcf05d19] 一度は姿を消したフェンディル王国ですが、その名は魔動機文明時代にふたたび現れます。以降は後期フェンディル王国時代とされ、現在に至るまでの歴史を紡いできています。 再びフェンディル王国を興したのは、魔法王フェンディルの子孫たちです。彼らは魔動機文明時代の黎明期から国の再興に尽力し、他に先駆けて国家として復活することに成功します。抜きん出た国力は発展に発展を重ね、ザルツ地方の西半分からリグール河に至るまでを全て領有する大国へと成長していきます。 フェンディルの発展を支えたのは、魔法文明時代の遺産、そして賢者と呼ばれた知識人たちです。賢者たちは、王家ではないものの魔法文明時代の有力な魔術師たちの子孫などであり、彼らが知る限りの魔法に関する知識を王家に供しました。また、王家に遺されていた魔術書などを積極的に公開し、魔動機術を始めとする「万民が使える」新たな魔法研究にその知識を提供しました。これにより、フェンディルは当時の魔法研究の最先端を走ることになります。"ミストタワーズ"で錬金術が再発見されたことは、魔動機術のみならず、あらゆる研究分野でフェンディルがトップであったことを示唆しています。 王家の気質は、そのままフェンディル王国の気質となり、社会貢献と学術研究に熱心な国風が名を馳せました。誰もが平和で豊かに暮らせるようにと、魔動機械の開発と改良が日々進められ、量産体制も整えられました。他国に比べて多くのルーンフォークジェネレーターが造られていた形跡があるのも後期フェンディル王国の特徴であり、最先端を好んだ国風の表れでしょう。 魔動機文明時代中期には、「出陣の鐘は祝勝の鐘と同じ音」とまで言われ、"無敗"の二文字を冠せられた伝説の魔動機兵団も編制されましたが、この武力も他の人族国家に向けられたことはなく、魔物討伐や災害への対応に活躍したとされています。フェンディルは、それ程までに平和的であり、当時北方にあったエルフ領土への侵略をたくらんだ王を「人道にもとる」と嘆いた実弟が手を下してまで止めた、という逸話も伝えられています。フェンディルの人々は、「広大な領土は、武の力ではなく、王家の愛の力により得られたものだ」という言葉を、親から子へと伝え続けています。今なお、フェンディルの国と人を形容するに、まず「気さくで優しい」という言葉が使われます。 フェンディルの愛は、外交面でも有名でした。積極的な技術交換により、東隣の大国アウリカーナ共和国や、北方のさまざまな国々と友好関係を築いていました。大きな国力は正面からの武力衝突を未然に防ぎ、王家への国民の深い敬愛が、お人好しに付け入ろうとした工作を阻みました。フェンディルは実に長い間、平和と安息の日々を過ごしたのです。 そんなフェンディルの繁栄に終止符を打ったのが《大破局》でした。大規模な地殻変動の影響を大きく受けたため、国土の大半が破滅的な被害を受けました。混乱を極める中、オッド山脈の麓、現在"バルバロスの顎"と呼ばれる地域からの蛮族軍による奇襲攻撃も発生、主要な都市は次々に陥落。ついには王都ディルクールのみを残してすべての都市が制圧・破壊されてしまいました。 それでも最後まで諦めずに抵抗し続けたのが、当時の国王フレイオン・フェンディルだと言われています。彼はディルクールを拠点に蛮族軍を迎え撃ち、決死隊をルキスラ(この時には既にアウリカーナ共和国は崩壊していました)へ送り増援を求めました。兵力に乏しい状況ではありましたが、フレイオンの慧眼により、作戦はどれも矢継ぎ早に成功し、決死隊は無事にルキスラへと辿り着き、増援が到着するまでの間、ディルクールは魔動機兵団を全軍投入して蛮族軍の猛攻を凌ぎ切りました。 その陰には、当時の大臣であった人物の活躍があったとされています。大臣は表立って活躍する事は望まなかったものの、フレイオン王の側近として、彼の信頼を一心に受けていたと言われています。王城に住む一部の者にしか顔すら知られていない大臣でしたが、《大破局》の後、病床に伏していたフレイオン王は、彼について「あやつと共にあれば、まるで未来が手に取るように分かるのだ」と語りました。 とはいえ、被害も並大抵のものではありませんでした。フレイオン王は戦の後に病に伏すこととなり、魔動機兵団も激しい戦いの末に全滅してしまいました。戦いの中で魔動機兵の製造方法や工房は失われており、再編は不可能です。このような状態では蛮族との戦いを続けることは難しく、ほどなくしてフェンディル王国はルキスラ帝国に併呑されるに至りました。 この時フェンディルは、フレイオン王の息女ネファーナが若き女王として即位したばかりでしたが、ルキスラ皇帝アレウスⅠ世は彼女を強制的に退位させ、自分の息子へと嫁がせました。この事態に、王家を愛する国民は、「デュランディル時代から続く王族の姫君をフェンディルの地から去らせてしまった」と胸を痛め、王家の再興を固く誓いました。 以降、フェンディルの民たちは自国の復興と平和のために努力を続けました。そして200年の後、その悲願は果たされます。およそ100年前、ルキスラ帝国の皇位継承問題で勃発した内戦を機に、再度独立を果たしたのです。ネファーナの弟エレドランが遺した血を継ぐ新王が玉座につき、新生フェンディル王国は誕生したのでした。 ***現在のフェンディル王国 [#t3e019c0] 再び独立したフェンディル王国は、文化・文明の復興に力を注ぎました。独立時には、自国に対するちょっとした再発見ブームが起こり、さまざまな場所や地域が探索され、歴史書を繙いての研究が行われました。それまで世界から忘れ去られていた第二の魔法技術、錬金術が蘇ったのも、この時、この国でのことです。 王国が特に力を入れたのは、魔法技術と芸術の復活です。長い歴史で常に国の礎であり続けた魔法技術と、豊かな暮らしの象徴であった芸術は、フェンディルの誇りであり、真っ先に取り戻すべきだとされたからです。結果、100年余りでフェンディルの魔術、芸術文化は大きく復興し(あるいは革新し)、現在ではザルツ地方ではもっとも魔術、芸術の力を持つ国家へと成長しました。最近は魔動機械の研究が特に熱心に行われていて、小型の飛行船の修復にも成功しています。また、首都ディルクールのような大きな街では他国の都市に比べてルーンフォークが多いことも特徴となっています。 加えて、近年ルキスラ帝国で開発された〈自立可動式戦闘支援システム〉を輸入し、ルキスラと共同で量産に向けた研究を行い、見事成功しています。とはいえ、ゼロから造り出すには技術力は不足しており、〈自立可動式戦闘支援システム〉はまだまだ高価なものとなっています。 文化復興が進むに従い、人口は増加の一途を辿りました。そこで顕著になるのが食糧の問題です。第一次産業よりも、魔法の品々などの加工品での収入が大きな割合を占めているフェンディルは、徐々に食品価格が高騰してきました。蛮族討伐で国土は徐々に広がりを見せていましたが、一度は滅び、今なお蛮族の残党が残るザルツ西部では一挙に広大な土地を手に入れるのは難しい話です。そのため人口増加の速さについていけず、食糧の輸入量は増える一方で、国庫を圧迫していました。そこで前王ソーラスは、抜本的改革を打ち出すべく領土拡大政策に乗り出しました。これ以後のフェンディル王国については、後述の《エレディア入植計画》にて詳しく記します。 この項目では、一度話題を変えてフェンディル王国の政治と軍備について記します。フェンディル王国は、古来より世襲の君主制です。建国から現在に至るまで、王家の血脈を守り続けています。 フェンディルでは基本的に国王が権力を握ります。しかし、魔動機文明時代以降は国王への助言機関として貴族や知識人たちからなる元老院が設けられており、すべてを意のままにできるわけではありません。また、ルキスラの政治体系を取り入れ、軍事と文化面については大臣を設けて一部代行させています。最終決定権が国王にあること、大臣の更迭・罷免を国王が自由に決められる点も、ルキスラと同じです。 こうしたシステムはあるものの、国王と元老院、大臣たちで意見が分かれ、衝突するような事態は多くありません。フェンディルの国民は誰もが王家を誇りに思い、敬愛しているので、国王をないがしろにすることはないのです。 現在は国王空位なものの、国王代理としてコークル姫とラフェンサ姫が優れた政治手腕を発揮しています。彼女たちが打ちだす政策は、どれも国民の生活を重視するものばかりで、国民たちからの人気は高く、元老院も、次から次へと出てくる姫たちの政策の見事さに舌を巻くばかりで、助言や補佐はするものの、反対することは滅多にありません。ただし、双子姫揃っての即位に関してだけは、異例のことだとして一貫して渋る態度をとり続けています。 伝説の魔動機兵団が失われた今、フェンディル王国を守るのは、〈幻影騎士団〉です。優れた戦士・魔法使いたちで編制されるこの騎士団は、魔術を組み合わせた戦術を得意とし、ザルツ地方でも有数の戦闘力を誇ります。この騎士団を突破してフェンディル王国へ侵攻するのは、容易なことではないと周辺諸国は承知しています。 〈幻影騎士団〉は、蛮族の撃退・討伐に力を入れていますが、すべての蛮族に対応できるわけではありません。そのため、冒険者たちへ仕事を斡旋することも多く、国は冒険者の呼び込みにも積極的です。最近では、冒険者の店の経営者に対する助成金制度も設けられています。 ***大陸新暦302年《エレディア入植計画》開始 [#i08acf0e] 加速度的に増大する食糧需要に対応するために、前王ソーラスは領土拡大政策に乗り出しました。それが《エレディア入植計画》です。この計画の実行にあたって、現在の元老院の長ヴェゼンの進言が大きな影響を与えたと言われています。 エレディア大三角州は王国の北方に広がる肥沃な土地で、《大破局》以前は国の穀倉地帯として活用されており、王はこの地を取り戻そうと考えたのでした。しかし、現在の三角州には土着のエルフやリザードマンが多く住んでいるため、入植計画は思うように進みませんでした。それどころか、同じく領土拡大を狙っている港湾都市ロシレッタとの軋轢を生む結果となってしまいました。 そんな折、転機が訪れます。突然、エレディア大三角州のリザードマンを始めとする蛮族がエルフたちの集落へ侵攻を始めたのです。この時期には、丁度“万技の竜王”ヴィクトール・ラングハンスがザルツ地方西部へと手を伸ばし始めており、彼らと繋がりがあったかは定かではないにせよ、それに呼応するように決起したのだと推測されています。日頃から戦いの備えはしていたものの、リザードマンたちは数でエルフたちを圧倒し、瞬く間にいくつものエルフたちの集落を強奪してしまいました。 それにいち早く応じたのが、ソーラスとヴェゼンでした。ヴィクトールの襲撃に備え、戦力はフェンディル主要都市にすべて残しておくべきだと主張する者も多く存在しましたが、ソーラスは「此処で手を差し伸べずに、どの口でフェンディル王を名乗れようか」と言い、太古から続くフェンディルの愛という伝統を守るため、〈幻影騎士団〉を始めとした戦力をエレディア大三角州へと送り込みました。 水辺での戦いということもあり、フェンディル王国軍は苦戦を強いられましたが、彼らの助勢により心を開いたエルフたちの協力により水辺でも互角に立ち回れるような策を採ることが出来るようになると、人族側の反撃が始まりました。最終的には、リザードマンたちの多くを陸地へと誘い出し、撃退することに成功します。 一方ロシレッタはといえば、この戦いが終わるまでに行動を起こすことができませんでした。多くの種族が入り乱れるロシレッタの議会は、さまざまな意見こそ出るものの、それをまとめるのに時間が掛かってしまい、どうしても行動に移すのに多くの時間を要してしまうのです。それは今回においても例外ではなく、エレディア大三角州への入植では、フェンディルに大きくリードを許すことになります。 リザードマンたちとの戦いを経て、土着のエルフたちは少しずつフェンディル王国へ心を開いていくことになります。まずは食糧の交易から始まり、次第にその他の嗜好品やさまざまな素材などの交易も開始されました。入植開始から1年半も経つ頃には、エレディア大三角州の一角に住まう者たちも出てきました。 それからしばらくの時が経つと、エルフたちは、緩やかにではありますが、フェンディル王国とだけでなくロシレッタとの交易も開始し、三者間の関係は良い方向へと向かい始めます。 ***大陸新暦304年《魔物病》の流行 [#t7c3a8bb] 《エレディア入植計画》が始まってからおよそ2年、周辺状況は落ち着きを見せ、フェンディル・エレディア間の交易や交流が活発になって来た頃、大きな問題が発生しました。それは、後に《魔物病》と称される病の蔓延でした。 当初はフェンディル王国の僻地にある農村で患者が発見され、その患者から他の患者に伝染することはなかったため軽視されていましたが、ある時を境にその農村で急激に患者の数が増加しました。何が引き金となったのかは未だに分かっていませんが、それを皮切りに首都から離れた村々でこの《魔物病》の患者は次々に増えていきました。 《魔物病》の症状は、まずその前兆として高熱となり、次に嘔吐感、体の各所に異物感を感じることから始まります。その時点では他の病と区別が付きにくく、対処が遅れることがままあります。その期間を過ぎると、突然患者は激しい痛みに襲われ全身の皮膚が爛れ、剥がれ落ちていきます。この時点でも患者は死に至ることはなく、かろうじて人の形を維持しているものの、その醜悪な見た目がまるで恐ろしい魔物に見えることから、《魔物病》の名前が付けられました。 文献を辿ってみれば、過去にもフェンディルの地で似たような病が流行したことがあるようですが、その時も原因を突き止めることは出来ず、治療法も確立されていませんでした。 《魔物病》が極度に進行した患者は、己の醜悪な見た目に耐え切れず、精神を病んで自ら命を絶つか、変化し続ける身体に耐えられず、肉体が自壊するかして最終的に死に至ります。幸運にも病の進行過程で命を落とさなかった患者は、最終的に肉体が自然に再生し、元の生活を送ることができます。しかし、そのような幸運な者は100人に1人居るかいないかであり、発症してしまえばまず命を落とす死病として恐れられています。 発病する種族に特に制限はないようで、人間、エルフ、ドワーフ、リルドラケン、グラスランナーにシャドウ、果てはルーンフォークの発症例もあります。ただ、それだけ多くの患者を出しながらも、接触感染や飛沫感染で他者に伝染してしまうことはありません。 そのような事から、研究者たちからは一種の呪いのようなものだろうと言われています。実際、過去の症例の中には【リムーブ・カース】を用いて症状を和らげ、完治させることが出来たというものもあります。しかしながら、患者の数に対して《魔物病》を治すだけの強力な神聖魔法を扱うことの出来る神官の数は圧倒的に不足しており、また大陸新暦304年に流行した《魔物病》には、その方法は通用しないとの理論も提唱されています。 年が変わる頃には、多くの犠牲者を生み出してしまったものの、新たな発症者が出ることも無くなっており、《魔物病》の問題はひとまず終息していくこととなります。しかし、この恐ろしい病気を解明し、治療法を確立するために、今日まで多くの研究者や神官たちが日々議論を交わし、研究を続けています。 ***大陸新暦306年《血の禊事件》 [#d48fb323] エレディア大三角州の蛮族たちを退け、良好な関係を築き始めていたフェンディル王国、三角州のエルフたち、ロシレッタの三者ですが、彼らの関係はそう長くは続きませんでした。入植計画が開始されてから4年後、彼らの関係を崩壊させる事件が起こることとなります。 大陸新暦306年に入った頃、フェンディル王国の王都ディルクールを中心に不穏な噂が流れるようになります。 「近隣の村々で、女性や子供が次々に行方不明になっている」 そんな噂が流れ始め、それに呼応するかのように各地からディルクールやその他の都市の冒険者の店に、行方不明者捜索の依頼が届けられます。しかし、なかなか行方不明者たちの消息を掴むことは出来ず、また一連の事件の犯人たちの足取りを掴むことも出来ない状況が続きました。それからまもなくして、事態を重く見たソーラス王は、冒険者たちの活動を全面的にバックアップすると共に、王国軍を動かし捜査に全力を注ぎます。また、エレディア大三角州のエルフたちも、以前の恩義を返すべく彼らに協力して調査に当たりました。 冒険者に王国軍、そしてエルフたちの調査の結果、次第に事件の真相が明らかになっていきます。調査の結果、《黒の教団》という邪教集団の存在が浮き上がって来ました。彼らは古くから存在する、魔神を崇め、狂神ラーリスを信仰する邪教徒たちであり、ザルツ地方においては、20年程前にルキスラ帝国付近で小さな話題となったくらいで、フェンディル王国の人々からは殆ど忘れ去られているような存在でした。何処からかやってきたのか、それとも鳴りを潜めていたのか、それはわかりませんが、彼らは突然姿を現し、フェンディル各地で誘拐事件を起こしていたのです。 そんな彼らを追い詰め、ついに王国軍らはディルクールの西、ジャーベル・ウォーキーの森の北端にある《黒の教団》の拠点のひとつに乗り込みます。遺跡を改造した拠点の中には多くの教団員たちが居り、王国軍らはそれを制圧しながら遺跡の奥へと進みました。遺跡の最深部には、地面に奇妙な紋が刻まれた空間があり、その近くの牢の中に行方不明者たちを発見します。王国軍らは彼らを保護し、教団員たちを捕縛してディルクールへと連行しました。これで一連の事件は解決かと思われましたが、ディルクールへと帰還した彼らにとある報せが届きます。 それは、エレディア大三角州にて天まで届かん程の光の柱が上がり、巨大な地震が起きたというものでした。地震の被害はそう大きくなく、王国軍らは帰還したその足で大三角州の調査へと向かいます。大三角州のエルフたちのまとめ役であるエドガールが住む集落に辿り着くと、王国軍らはボロボロになった集落と傷ついたエルフたちを発見します。彼らに手当てを施しながら話を聞くと、「突然魔神の大群が現れ、集落を蹂躙し、女子供を攫っていった」との証言があり、それを《黒の教団》の犯行と断定、彼らの追跡を開始します。 追跡した王国軍らが辿り着いたのは、先に見た拠点と似た造りの教団の拠点のひとつでした。しかし、ジャーベル・ウォーキーの森の北端にあったそれよりも、禍々しい空気を纏い、複雑な構造の場所で、教団員や魔神たちの妨害もあり、王国軍らは調査・制圧に苦戦を強いられます。ようやく最深部の儀式場に辿り着いた彼らを待っていたのは、凄惨な光景でした。多くのエルフやフェンディル王国民の女性、子供たちが、体中から血を流し、ある者は身体の一部が欠損し、またある者は身体を両断されたような状態で死んでいたのです。奇跡的に生き残っていた者もいましたが、彼らも目の前に広がる光景に正気を保っている事が出来ず、廃人同然の状態になっていました。壁や床、天井までも血で覆われたような空間で、王国軍らは教団の幹部らとの決戦に挑みます。魔神を自在に召喚する彼らに悪戦苦闘しますが、激闘の末、突入部隊は何とか勝利を収めます。幹部や教団員たちは激しい戦いの結果皆命を落とし、彼らから情報を得る事は叶いませんでした。 この悲惨な事件は、大量の血が流れたことと、教団員たちがその血で身体を雪ぐかのような行為を見せたことから、後に《血の禊事件》と称されるようになり、近年のフェンディル王国では最も大規模な惨劇として語られることになります。 その後の調査で、驚くべき事実が判明します。エルフの集落の襲撃を企てた教団の幹部は、フェンディル王国の貴族であり、率先して大三角州へと移住を希望し、彼らと交友を深めていた人物だったのです。王国貴族の中でも、それなりの地位に立っていた人物がそのような事をしでかしたとなれば、大三角州のエルフたちが黙っているはずがありません。彼らは王国全体に対して不信感を抱き、ロシレッタ、フェンディル両国との交流を強引に断絶しました。 ソーラス王はこれを深く嘆きますが、エルフたちを説得する事はできず、フェンディル王国は再び食糧問題に直面することとなります。平和であったはずのフェンディル王国での突然の凄惨な事件に、国民たちも深く落胆し、怯えてしまいます。ソーラス王は、ひとまず国内を安定させるため、まずは国外よりも国内を優先し、治安維持と《黒の教団》の残党の掃討に力を注ぐ事にしました。 しかし、その無理が祟ったのか、程なくしてソーラス王は病に倒れます。彼が倒れた理由には、心労以外の事情もあるとの噂もありますが、事件後の彼の様子を見る限り、疲労に心労が大きな原因となった事はまず間違いないとされています。 ***大陸新暦307年 国王ソーラス崩御 [#r5e9214e] 《血の禊事件》から1年後、病床に伏していたソーラス王の病状が著しく悪化し、彼は41歳という若さで逝去してしまいます。王の崩御の報に国民たちは嘆き悲しみますが、東の隣国ルキスラ帝国では“黄金”と呼ばれるドレイクを領袖とした蛮族軍との戦いが激化していた事もあり、早急に次の国王を立てる必要がありました。国民たちの目は当然、ソーラス王の娘であるコークル姫に向けられます。この頃にはまだ成人も迎えていないコークル姫でしたが、その聡明さは既に国民たちの中で話題になっており、優秀な宰相をつけた上で即位すれば、彼女の年齢など気にする必要もないとされていました。 しかし、コークル姫はその即位の要請を拒否。双子の妹であるラフェンサ姫との共同即位を訴えます。コークル姫とラフェンサ姫が非常に仲の良い双子の姉妹であることは、国民の誰もが知る所でしたが、フェンディル王国ではこれまでに共同即位の前例はなく、元老院はさまざまな観点からこれを判断しこれに強く反対、折り合いがつかず、今でも空位が続いています。 この玉座を巡る事件は大きな混乱を招きましたが、国王代理としてコークル姫とラフェンサ姫が14歳の若さにして驚くべき政治手腕を発揮すると、瞬く間に収束しました。彼女たちは、ソーラス王の遺志を継ぎ、国内の食糧不足の解決から力を注ぐことにし、農地改革や作物の品種改良、流通の整理など、国内での工夫から難題を解決に導こうと尽力しています。 ***大陸新暦308~309年《輪音事変》発生、終息 [#ncd6b246] 大陸新暦308年、次の大きな事件はフェンディル王国の隣国ルキスラ帝国と、さらにその北方に存在するダーレスブルグ公国を巻き込んで発生します。魔動機文明時代から続く因縁を発端とする神器を巡る事件は、最初はダーレスブルグ公国内でのクーデターとして姿を現し、次第にその全容を明らかにしていきます。 一連の事件の首謀者は、当時のルキスラ帝国の宰相ベアトリス・エインズレイと皇帝ユリウス・クラウゼでした。彼らは〈救世の弔鐘〉と呼ばれる神器の力を用い、帝国、公国、北方のレーゼルドーン大陸、果てはザルツ地方を支配しようとしました。途中、彼らの協力関係に不和が生じ、ベアトリスは単独で〈救世の弔鐘〉を操り、人々がベアトリスという“虚ろの女神”のみを信仰する世界を作り出してしまいます。 ダーレスブルグ公国の姫君マグダレーナ・イエイツと彼女の妹であるシャルロット・イエイツ、そしてシャルロットが率いる少数精鋭部隊《アストラム》はその他の仲間と共にこの事件に立ち向かいます。一度は失意の底に沈んだユリウス皇帝ですが、彼らから発破をかけられ、彼もまた自らの過ちを正すために参戦しました。戦いの果てに、《アストラム》らはベアトリスの居城である空中神殿《虚空楽土》へと突入します。全力で挑んだ最終決戦に辛くも勝利した《アストラム》たちは、ベアトリスがその行動に及んだ事情を鑑み、彼女の命を奪うことなく、彼女を連れて彼らの故郷へと帰還します。 この一連の事件は、《輪音事変》という呼称が付けられ、フェンディル王国にもその話はすぐに伝わって来ました。幸い、《アストラム》らの迅速な活躍により、フェンディル王国にはこれといった被害はなかったため、双子姫はルキスラ帝国を糾弾することはありませんでした。それどころか、事変後のユリウス皇帝との会談では彼を激励し、苦笑させたと言われています。ユリウス皇帝は責任を取り皇帝を辞するつもりでしたが、混乱した帝国を治められるだけの器を持った者は他に居らず、事件後も彼はその才覚を遺憾なく発揮して皇帝位に立ち続け、現在では事変前よりも大きな支持を得るようになっています。 今まではユリウス皇帝は野心家として名が知られていたため、フェンディル王国はなかなか交渉に踏み出す事が出来ていませんでしたが、事変後のユリウス皇帝の様子を見て、コークル姫は二国会談において彼にひとつの提案をします。それは二国間において、一部商品に関する関税を撤廃することで流通の円滑化を図るというものでした。この提案には、フェンディル王国は食糧品を安く輸入でき、品種改良の機会にも恵まれ、ルキスラ帝国はフェンディル王国の卓越した技術で加工された魔法製品、魔動製品を輸入し、その技術を研究・導入することによりさらに技術力を向上させられるという両国にとって大きな利益がありました。ユリウス皇帝はそれを承諾、フェンディル王国における食糧問題は多少改善されることとなります。また、この時期にルキスラ帝国から〈自立可動式戦闘支援システム〉の技術がフェンディル王国へと流入し、一年足らずの間に大きく改良されることとなります。 早くもそんな功績を立てた双子姫は、卓抜した魔術の才能も持っており、今では誰もが認める国の代表です。 双子姫はその世論を盾に今なお共同即位を訴えていますが、元老院は長女コークルが国王、次女ラフェンサが宰相位に就くことで譲歩してほしいと首を縦に振りません。しかし、瓜二つの容姿を持つふたりを見分けられるのは、ふたりが10歳の時に亡くなった王妃レーアだけでした。もし本当にそれぞれが国王、宰相位に就いたとしても、ふたりはときに役割を入れ替えて振る舞うかもしれず、そうなったとき、それを見抜ける重臣はいないでしょう。 《血の禊事件》以降、フェンディル王国では大きな事件は起こっておらず、国内はおおむね安泰の時を送っています。しかし、《黒の教団》を完全に退けたとは言いがたく、また周辺の蛮族の脅威もちらついている今、決して予断は許されない状況に置かれています。